旅館にインバウンドショップはいらない、は本当か——”和の空間”にいるからこそ生まれる、購買体験の新しい設計
旅館・温泉ホテルへのインバウンド関心が高まっている
訪日外国人旅行者の間で、旅館・温泉ホテルへの関心が急速に高まっています。日本の伝統的な建築空間、温泉、懐石料理、浴衣——こうした体験が「ホテルでは得られない本物の日本」として評価され、欧米を中心とした富裕層やリピーターから特に人気を集めています。
観光庁のデータでも、訪日外国人の旅行先として温泉地や和風旅館を含む地域への関心の高まりが確認されています。「日本に来たなら旅館に泊まりたい」という需要は、今後さらに拡大することが見込まれます。
「体験はある、でも持ち帰るものがない」という課題
旅館・温泉ホテルは、日本文化の「体験」という意味では非常に豊かな環境を提供しています。浴衣を着て廊下を歩く、露天風呂に入る、仲居さんと言葉を交わす、箸で懐石料理をいただく——こうした体験は、外国人ゲストにとって強烈な印象を残します。
一方で、「その体験の記念を、かたちとして持ち帰る」接点が整っていない旅館が多いのが現状です。滞在中の体験は豊かでも、購入して帰国後も手元に残るものが少なければ、「あの旅館で過ごした時間」の記憶は薄れていきます。
旅館の売店には温泉まんじゅうや地域のお菓子、定番の土産物が並んでいるケースが多く見られます。それ自体は価値のある商品ですが、訪日富裕層やリピーターが「ぜひ買いたい」と感じる品ぞろえになっているかどうかは、別の問いです。
なぜ「和の空間」にいるからこそ、ショップが機能するのか
旅館・温泉ホテルには、インバウンドショップにとって理想的な条件が整っています。
まず、ゲストはすでに「日本文化のコンテキスト」の中にいます。浴衣を着て廊下を歩き、日本の建築に囲まれた状態でショップを訪れるゲストは、日本の工芸品や雑貨に対して最も関心が高まったタイミングにいます。「この浴衣を自宅でも着たい、お披露目したい」「この旅館の雰囲気に合う置物を持って帰りたい」——こうした購買動機が、日常の買い物よりもはるかに自然に生まれます。
実際に、三喜雑貨でも「浴衣の寝巻」「甚平・作務衣」へのお問い合わせが多く、その動機が、以前の旅館での宿泊体験にあることがほとんどです。日本人が想像する以上に、外国人ゲストにとっての日本文化は、coolであり、ユニークであり、帰国しても楽しみたい対象なのです。
また、旅館での滞在は夕食後や入浴後に「何もしない時間」が生まれやすい構造です。ホテルのように周辺の商業施設へ出かけるという行動が起きにくく、館内のショップがゲストの時間の受け皿になりやすい環境が整っています。荷物もなく、時間にも追われず、ゆっくりと買い物する時間自体が、“過ごし方の価値”にもつながります。
旅館の「体験」とショップを組み合わせる設計
インバウンドショップを旅館に設ける場合、洋系ホテルとは異なるアプローチが有効です。旅館での体験そのものと商品を結びつける設計がポイントになります。
たとえば、器や箸置き。心地よい衣類。肌ざわり抜群のタオル。飾り扇子。旅館スタッフが着用している半纏。
旅館の世界観に感化されたゲストが、翌朝ショップで購入できる——こうした流れをつくることで、「体験」と「購買」がひとつながりになります。旅館での滞在体験が、商品の価値を高める背景として機能するのです。
また、日本各地の現代作家や職人の作品を選定する際に、旅館の立地や世界観を活かせる点も大きな強みです。その土地のストーリーを大いに活用し、一方で、きちんと軸をもって作品の選定をしていくことが、一般的な土産店と一線を画した品揃えにつながります。
ヒルトン東京ベイの事例から旅館が得られる示唆
洋系ホテルであるヒルトン東京ベイでも、インバウンドショップ導入によって同じゲストが滞在中に何度も来店し、着物をはじめとした高額商品が売れ筋になるという現象が生まれています。ここで重要なのは、「日本文化への関心が高まった状態のゲストが、一定時間同じ場所に滞在している」という条件です。
旅館はこの条件を、洋系ホテル以上に高い密度で持っています。浴衣・温泉・懐石という体験が積み重なった状態のゲストに対して、「体験した世界観をそのまま持ち帰る」買い物体験が用意できれば、質の高い日本の工芸品・雑貨を提供できる空間があれば、その購買体験はホテルの館内ショップとは異なる深みを持つものになります。
旅館の滞在体験を、「持ち帰れる記念」につなげる
旅館の強みは体験の豊かさにあります。その体験をかたちとして持ち帰ることができる空間をつくることは、ゲストの満足度をさらに高め、「また来たい」という感情と口コミへの発信動機を同時に生み出します。
「旅館にショップは必要ない」という考え方は、かつての訪日旅行者像にもとづいたものかもしれません。日本文化の「本物」を求めてリピートする現代の訪日外国人にとって、旅館の館内ショップは滞在体験を完成させる最後のピースになり得ます。
Find My Japanでは、旅館・温泉ホテルのブランドや空間の世界観に合わせた館内ショップの企画・運営をご支援しています。商品の仕入れ・選定から空間デザイン、多言語によるPOP、日々のイベントまで一貫してサポートいたします。多様な売場面積に対応可能です。ご相談はお問い合わせフォームよりご連絡ください。